記憶に残るアルバイト

私のアルバイト先は小さなレストランでした。小さなといってもホテルなどに併設されるレストランの系列で、料理はファミレスと違いすべて食材から調理するこだわりの本格派です。私が勤めていたときは二十歳になる前でしたが、人情厚い店長ときさくな料理長の元でのびのびと働くことができました。

レストランで働いていておいしいのは、なんといっても料理が食べ放題なところです。ランチの時間帯が終わればまず食事です。これから休憩だろうが直帰だろうが必ずまかない飯を食べさせていただきました。メニューは本日のランチがそのまま出てくることもあれば、飽きないようにと料理長が気を利かせて新メニューを作ってくれることもしばしばです。

たとえばチャーハン、お店は洋食屋ですが料理長は何でも作ることができます。家庭用とは違う火力で作られるチャーハンは正に珠玉の一品です。パラッとした黄金色のご飯にふんわり卵、ジューシーなチャーシューを全ておいしくいただくことができました。また従業員の家族へもサービスを徹底しています。実は秘密の得点としてアルバイトでも従業員の家族が行くと食事の価格が割引になりました。私も母を連れてきた時がありましたが、その時は珍しい人が来たという事で(私はほとんど家族を連れてきていなかった)特別に食事を無料サービスとして頂きました!

時給はそこまで高くありませんでしたが、シフトをかなり自由に選ぶことができました。このレストランは通常ランチタイムから夕方の喫茶タイムまでですが、お客様のご希望で夜も宴会場として貸し出すことがあります。昼と夜で出勤する時間こそ決まっているものの、従業員数が多いこともあり、曜日や日にちの融通はほとんどこちらの希望が通る環境です。やむをえず誰かがドタキャンしてしまった場合でも、必ず誰かのフォローが入るために安心して働くことができました。その上、暇な日でもランチの時間が続いているときはお客様が来るかもしれないので店にいる必要があります。店長から料理長、ホールのスタッフを始めどなたもお話好きなため、「今日はお客が入ってこないねぇ」などと談笑しながらお店の掃除などの雑務をこなしていました。

さらに業務の流動性はとても高い職場です。特に厨房に入る人間は忙しいとき、積極的にホールへ出て料理を運ぶこともあります。場合によってはそのままホール業務をこなし、お客様を案内して注文を取りに行きと大忙しです。私はそのどちらもこなせる要員のため、忙しいときは一人二役三役があたりまえという世界でした。特に続けて夜の宴会がスケジュールにある日はヘトヘトになりながら帰宅したものです。

一方、若い人材にも積極的に仕事を回していく店でした。消費税率の変更などでメニューを刷新するという話になった時、お客様に見せるメニューを作成したのは何を隠そうこの私です。他にもエクセルを使った帳簿の入力など、事務仕事も行うことで自給以上の報酬を給料で得ることができました。さらにおいしい点は人間関係が濃密な所です。従業員同士は雨の日はよく他のアルバイトの方に車で送ってもらったのはもちろん、誰か一人が旅行に出かけると必ずお土産を皆で分け合うほどの仲良しぶりです。私が成人した後は仕事の後によく飲みに連れて行ってくださり、おごっていただいたものです。

そして料理人の一人が独立したときもお祝いに呼んでいただき、ご馳走までして頂きました。何よりもうれしい事は、私がアルバイトを辞して進学・学校を卒業して就職しても、店に寄ったときは店長と料理長が必ずご飯をご馳走してくれる事です。独立して店を持った料理人も、就職した私に仕事の依頼を下さり、食事をご馳走してくれたりします。また皆さん全てが人生のアドバイスを授けてくださるほどの暖かさです。確かに時給は低かったかもしれません。ですが私はこのアルバイト先で貴重な社会経験を積むことができました。働き始めた当時は15歳だった私を雇ってくださった店長の懐の大きさを、いま感じずに入られません。店長、あの時食べたチャーハン、本当においしかったです。