難しいバイトの昇給

大学生の時、近所の小さな書店でアルバイトをしていました。週に2回、17時から閉店の20時30分までと、日曜日の12時から20時30分までの勤務でした。時給は当時、その地域の最低時給である750円でした。初めてのアルバイトで、書店はアルバイト代が低いので有名でしたし、仕事は楽しかったので、時給が低いのはさして気にならず、不満もありませんでした。

しかし、人手不足の解消を狙ってか、次の年には時給が780円になりました。昇給は単純に嬉しいものでしたが、非正社員が一律全員昇給したので、ベテランのパートさんから不満が出ました。私がアルバイトしていた書店はとても小さく、正社員が二人、大学生のアルバイトが4人、パートの年配の女性が4人でした。パートの年配の女性たちはみんなベテランで、10年近く働いています。大学生は主に夕方と週末、パートさん達は平日の開店から夕方までを担当していました。大学生のアルバイト達はほとんど、レジ打ちだけですが、パートさん達は搬入作業から在庫チェックなど、とても複雑で責任のある仕事をしていました。しかし、時給はベテランのパートさんも、大学生のアルバイトも同じでした。私も、自分の仕事とベテランのパートさんの仕事を比べると同じ時給は申し訳ないなと思いました。しかし、時給を決めるのは私ではありませんし、私や他の大学生が時給をあげて欲しいと交渉したわけでもないので、どうすることもできませんでした。

時給をあげても、夕方を担当する大学生のアルバイトは現れません。しかたがないので、店長は今度は、夕方17時から閉店20時30分までの時給だっけを780円から800円に上げました。複雑で責任の大きい、ベテランパートさんたちの時給は780円のまま据え置きです。これにははっきりとベテランのパートさん達から不満が出ました。当然だと思います。

矛先は主に店長へと向かいました。日中、ほぼ毎日10年も働いているのに、週に数回しか出ず、大学を卒業したら当たり前のようにアルバイトを辞めていく大学生よりも時給が低いのは許せません。すぐに、店長はパートさん達の時給も大学生と同じ800円に上げました。

パートさん達は賃上げ交渉の愚痴を私たち大学生アルバイトにこぼすこともありましたが、どんな顔をすればいいのか分からず、とても申し訳ない気分になりました。それ以降は半年から一年経つごとに時給は10円単位で上がっていきました。パートさんも学生のアルバイトも同時に上がるようになりました。時給が上がる時は前もってお知らせや掲示があるわけでもなく、ある月に突然給与の明細書を見て、時給が上がっているのに気が付きます。嬉しいけれど、時給が上がる仕組みがよくわかりませんでした。経営が上向いているようにはあまり思えませんでした。

当時が学生であまり気にしていませんでしたが、もしかしたら、当時住んでいた地域の最低賃金の額が徐々に上がっていたからかもしれません。最終的に、大学を卒業し、アルバイトを辞める頃には850円まであがりました。でも、私がアルバイトを辞めるのと入れ替わりに入ってきたまだ何にもできない大学生一年生の子が四年間務めた私と同じ時給の850円からスタートなのかと思うと少し複雑な気持ちがしました。ベテランのパートさん達は何度もこんな気分を味わったのかとしみじみ思いました。

時給があがるのはとても嬉しいですが、一律に昇給するのが必ずしも公平とはいえないよなと心からおもいました。私が辞めて10年以上断ちますが、里帰りの時にその書店に寄ったら、時給900円でアルバイト募集のポスターが貼ってありました。パートさんたちがアルバイトよりも時給が高くなっているといいなと思いました。