お給料以上に感動したホステスのアルバイト

私は、友人が働いていたクラブで一日だけホステスのアルバイトをしたことがあります。その日はお店の女の子が足りないから手伝ってくれないかと声を掛けられたのがキッカケでした。それまで水商売の経験はまったくありませんでした。友人はとても頭の回転が早く話しも上手でしたが、私はその反対でしたので勤まるかどうか不安でした。でも、一方で今までに経験のない世界に飛び込みたいという気持ちもありました。

それは当時、自分の体調も良くなかったのですが身内の介護をしていて、毎日限られた狭い範囲でしか行動出来なかったからかもしれません。とにかく友人が長く勤めているクラブでしたし色々と話も聞いていて、変なことをするようなお客様は来ないから大丈夫と言われて引き受けることにしました。

クラブで着るような服は持っていなかったんですが、その日はコスプレパーティーだったのでお店で服を貸していただきました。小柄で童顔だったせいもあるのかメイドさんがいいだろうということで、人生で初めてメイド服を着ました。こういう機会でもなければ着ることはなかっただろうと思います。これも何だか新鮮な気持ちになりました。そして初心者の私はまず挨拶と水割りの作り方を店長さんから教わりました。その時に源氏名も付けていただきました。次から次へと初めてのことだらけでついていくのに精一杯でしたが、このころになると不安というより楽しくなってきました。昨日までの狭い世界と全然違う世界にワクワクしていたんだと思います。

私は他のホステスさんのヘルプとして次々と席を回ることになりました。幸いその時に他のホステスさんに嫌なことを言われたり、されたりすることはなく初心者の私にも親切に接して下さったのがありがたかったです。私があまりにもぎこちなかったからかもしれませんね。

友人に聞いていた通り、変なことをしてくるお客様もいなくて、本当にごくごく普通の会話をしたいお客様が多いんだなと思いました。ただ、私はお客様の話に聞き入りすぎてグラスが空になっているのに気付かず、さりげなく店長さんがフォローして下さったことが何度もありました。あと、慣れない私はつい馬鹿正直に自分のことを聞かれるままに話してしまい、お客様に上手く話しを持っていかれてうっかり自分の住んでる所を教えてしまいそうになったりと失敗が多かったです。つくづく、友人も含め他のホステスさんはお客様と会話を楽しみながらも、頭をフルに働かせて居心地の良い空間を作っているプロだと思いました。

私が少しずつ場に慣れてきたのは日付が変わった頃でしょうか。20時からの勤務でしたので4時間ほど経った頃ですね。休憩をいただき、他のホステスさんと少しお話をしました。当時24歳だった私よりもずっと若い方でも色々なお客様に気を配りながら接しているせいか、とても落ち着いていらっしゃって随分落ち着いた大人の雰囲気でしたが、まだ高校を卒業したばかりの18歳と聞いてびっくりしました。他にも若くしてシングルマザーになってお子さんとの生活を支えていらっしゃる方、様々な事情で昼の仕事よりお給料の良い夜の仕事に就いたという方がたくさんいらっしゃいました。それぞれの事情で頑張っている皆さんは素敵だと思いました。

私の勝手な思い込みだったんですが、ああいう場所では高いお金を払っているんだからと威張るお客様も多いのかと思っていました。しかし、意外というと失礼かもしれないですがごくごく普通の方が多かったです。会社帰りの方が一番多かったですが、一旦家に帰ったけど一人で飲むよりは女の子と楽しく話しながら飲みたくてフラッと飲みに来たという地元の方も多かったです。こういうのも実際に働いてみないと分からないものだと思いました。そんなことを考えながら席を次から次へと移動し、あっという間に閉店時間になりました。20時から働き始めて6時間。未経験者の私でも時給¥2000でしたので、この日だけで¥12000も頂けました。一日でこんなにお給料を頂けたのは初めてでした。特にこの頃はなかなか外で働けなかっただけに本当にありがたい収入で、帰宅してお給料袋を開けた瞬間に思わず涙が出ました。

自分では絶対に応募すること自体考えられなかった仕事を思わぬ形で引き受けることになり、緊張しながらもとにかく無事に勤め上げられたのが嬉しかったんです。そして感動もしました。それは、昨日の今頃は閉塞感いっぱいの狭い世界で生きていた私の24時間後のこの瞬間を誰が予想できただろう、と。それからもしばらく介護の日々は続きましたが、このバイトの後は心境の変化がありました。それは、人生の中である日突然思いがけない形で違う世界にパッと飛び込むことも出来るんだと思うと、今までになかった明るい気持ちが心の中に広がったことです。未経験者で話が上手いわけでもなく容姿が良いわけでもない私に声を掛けてくれた友人にも感謝しています。たった1日、6時間の出来事でしたが閉塞感でいっぱいだった私にとって、とてもかけがえのないキラキラとした濃い時間でした。